コンパクトシティとは?法律・計画の仕組みと事例を解説
コンパクトシティとは
出典:PIXTA
駅前の商店街を歩いていて、シャッターが下りた店が目立つと感じたことはないでしょうか。かつて賑わっていたはずの中心部が静かになり、代わりに郊外の幹線道路沿いに大型店が並ぶ。こうした光景は、今や日本各地の地方都市で見られるようになりました。この構造を見直す考え方として広がっているのが「コンパクトシティ」です。
なぜコンパクトシティが必要なのか
日本では人口減少と少子高齢化が同時に進んでおり、これまでのように市街地を広げ続けるまちづくりでは、道路や上下水道といったインフラの維持費が住民一人あたりで見ると増えていく傾向があります。
また、車を自由に使えない高齢者にとっては、郊外に広がった生活圏そのものが不便さの原因になる場合があります。こうした状況を受けて、都市の機能を一定の範囲に集約し直そうという発想が生まれました。
コンパクトシティが対象とする課題
背景にある代表的な現象として、都心部の人口が減り郊外の人口が増える「ドーナツ化現象」、無計画な開発によって郊外に住宅や施設が虫食い状に広がる「スプロール化現象」、そして人口減少にともない市街地の中に空き家・空き店舗が点在する「スポンジ化現象」が挙げられます。
コンパクトシティは、これらによって薄く広がってしまった都市の機能を、もう一度集約し直すための考え方だといえます。
コンパクトシティの目的
コンパクトシティが目指すのは、住居・医療・福祉・商業・行政サービスといった機能を一定のエリアに集約し、それらを公共交通で結ぶことです。これにより、徒歩や公共交通で日常生活が完結しやすい環境をつくりながら、自治体側もインフラ整備や行政サービスの提供を効率化しやすくなると期待されています。
都市再生特別措置(コンパクトシティ)法とは
出典:PIXTA
「法律に基づく制度」と聞くと、堅く難しいものに感じるかもしれません。しかし、コンパクトシティを進めるうえでの土台となっているこの法律の内容は、意外と生活に直結しています。
制定された背景
1998年に制定された「まちづくり3法」(都市計画法・大規模小売店舗立地法・中心市街地活性化法)は、郊外への大型店の立地を抑えて中心市街地を活性化させることを目指した制度でした。しかし、これだけでは中心市街地の衰退に十分な歯止めがかからなかったという課題認識が広がり、より広い視点で都市構造そのものを見直す議論が進みました(※)。
※:”国土交通省「コンパクトなまちづくりについて」”参照
2014年改正の基本的な仕組み
こうした経緯を受けて、2014年(平成26年)8月に都市再生特別措置法が改正され、居住や都市機能の誘導を進めるための新たな仕組みが設けられました(※)。この改正が、いわゆる「コンパクトシティ法」と呼ばれる部分にあたります。都市全体の構造を見渡しながら、生活に必要な機能を計画的に誘導していく枠組みが、この改正によって整えられました。
※:”国土交通省「コンパクトなまちづくりについて」”参照
法律に基づく支援・補助制度
この法律に基づき、自治体が立地適正化計画を作成して行う医療・福祉施設等の拠点への移転促進や、移転後の跡地活用などに対して、国が予算面で支援する制度が用意されています(※)。こうした支援があることで、自治体は財政負担を抑えながら段階的にまちの構造を見直していくことができます。
※:”国土交通省「都市再生:コンパクトシティ形成支援」”参照
立地適正化計画とは
出典:PIXTA
法律の枠組みを理解したところで、次に気になるのは、それが実際どのような計画としてまちに反映されるのかという点です。その具体的な単位となるのが「立地適正化計画」です。
居住誘導区域と都市機能誘導区域の違い
立地適正化計画では、人口密度を維持したい「居住誘導区域」と、医療・福祉・商業といった都市機能の立地を誘導する「都市機能誘導区域」の2つが設定されます(※)。都市機能誘導区域は、原則として居住誘導区域の中に定められるため、生活に必要な施設が住居からアクセスしやすい範囲に集まっていくことが意図されています。
※:”国土交通省「立地適正化計画とコンパクト・プラス・ネットワーク」”参照
策定・見直しの流れ
立地適正化計画は市町村が作成するもので、人口や土地利用、交通の現状と将来の見通しを踏まえながら区域を設定します(※)。策定後もまちの状況は変化していくため、計画の達成状況を評価しながら、必要に応じて区域や施策を見直していく運用が想定されています。
※:”国土交通省「立地適正化計画の手引き【基本編】」”参照
中心市街地活性化法との違い
中心市街地活性化法は、中心市街地という限定されたエリアの商業機能やにぎわいを取り戻すことに主眼を置いた枠組みです。一方、立地適正化計画は都市計画区域全体を対象に、居住と都市機能の配置を面的に見直すマスタープランという位置づけになります。両者は対象範囲も目的の重心も異なりますが、実務上は連携して運用される場合があります。
コンパクトシティの主な手法・取り組み
出典:PIXTA
中心部に路面電車が走り、沿線に住宅や商業施設が並ぶ光景を目にしたことがある人もいるでしょう。こうした風景の裏側には、いくつかの代表的な手法があります。
公共交通ネットワークの整備(LRT・BRT)
自動車に依存しない移動環境をつくるため、LRT(次世代型路面電車)やBRT(バス高速輸送システム)といった公共交通を基幹軸として整備する取り組みが進められています。交通結節点の周辺に住宅や商業施設を集積させることで、徒歩圏内で日常生活が完結しやすい拠点をつくることが意図されています。
多極ネットワーク型のまちづくり
都市機能を1か所に集中させるのではなく、複数の拠点に生活サービスを配置し、それぞれを公共交通で結ぶ「多極ネットワーク型」の考え方も広がっています(※)。1つの拠点に負荷が集中しにくく、地域ごとの特性に応じたまちづくりを進めやすいという特徴があります。
※:”国土交通省「都市再生特別措置法等の一部を改正する法律の概要」”参照
空き家・空き店舗対策
市街地の中に空き家や空き店舗が点在する「スポンジ化現象」への対策として、既存の空き家・空き店舗の活用を促す取り組みも進められています。新しく施設を建てるのではなく、すでにある建物を使いながら中心部のにぎわいを取り戻していく方法だといえます。
居住を促す誘導的手法
居住誘導区域外への転居を規制するのではなく、中心部の魅力を高めることで自然に居住を選んでもらう「誘導的」な手法が基本とされています。商業施設や住環境の整備を進め、住民が自らの意思で居住地を選べるようにしていく進め方が想定されています。
コンパクトシティの事例
出典:PIXTA
手法を並べただけでは、実際のまちがどう変わるのかは伝わりにくいかもしれません。ここでは、国内外の具体的な取り組みを見てみましょう。
富山市は、鉄軌道をはじめとする公共交通を活性化させ、その沿線に居住や商業などの機能を集積させる「公共交通を軸とした拠点集中型のコンパクトなまちづくり」を進めてきました(※1)。駅などの拠点を「お団子」、それらを結ぶ公共交通を「串」に見立てた「お団子と串」の都市構造として知られています。
一方で、取り組みが必ずしも順調に進むとは限りません。青森市では、駅前に複合施設「アウガ」を整備し中心市街地の活性化を目指しましたが、商業部門の不振が続き、運営していた第三セクターが経営破綻するという結果になりました(※2)。
その後、商業フロアは閉鎖され、青森市役所の駅前庁舎として活用されています。この事例は、施設整備だけでは中心部のにぎわいを維持できるとは限らないことを示す教訓として、しばしば取り上げられます。
※1:”富山市「コンパクトなまちづくり」”参照
※2:”日本経済新聞「青森駅前ビル『アウガ』、市庁舎として再出発」”参照
コンパクトシティのメリットと課題
出典:PIXTA
良いことばかりのように語られがちなコンパクトシティですが、実際には見落とされやすい課題も存在します。
メリット
生活機能が集約されることで、徒歩や公共交通での移動が中心となり、車を運転できない高齢者などにとって暮らしやすい環境につながる可能性があります。
また、自治体側にとっても、インフラの維持管理や行政サービスの提供範囲を効率化する仕組みとして働くと考えられています。人口密度が保たれることで、地域の商業やサービス業の需要が維持されやすくなる面もあります。
課題・デメリット
一方で、居住地の選択肢が狭まると感じる住民が出てくる可能性や、人口密度が高まることによる近隣トラブルの増加が懸念点として挙げられます。
中心部の住宅需要が高まることで、家賃や地価が上昇し、経済的な事情から住み替えが難しい人にとって負担が増える場合もあります。青森市の事例のように、施設整備が先行しても周辺との連携が不十分だと、期待した効果が得られないこともあるでしょう。
コンパクトシティを進める際のポイント
出典:PIXTA
制度や事例を見てきたところで、次に気になるのは、実際にコンパクトシティを進めていく上で何が重要になるのかという点でしょう。
一つは、規制で居住地を制限するのではなく、住民が自分の意思で中心部への居住を選びたくなるような魅力づくりを、時間をかけて進めること。もう一つは、公共交通・福祉・商業といった複数の分野が連携して計画を実行していく必要があるという点です。
実際にこうした計画を形にしていく背景には、自治体の担当者や交通事業者、地域の事業者など、複数の立場の人たちが調整を重ねている現場があります。制度だけでなく、そこに関わる人たちの取り組みにも目を向けると、コンパクトシティへの理解がより深まるかもしれません。
コンパクトシティを理解してまちの持続可能性を考えよう
出典:PIXTA
コンパクトシティは、都市機能を集約し公共交通で結ぶことで、人口減少下でも暮らしやすいまちを維持しようとする政策です。法制度や事例を通じて仕組みは整いつつありますが、住民合意や既存産業への配慮など、実現には多くの関係者の連携が欠かせません。まちの将来像を考える一歩として、身近な自治体の取り組みにも目を向けてみてください。