行政の取り組み

郡山市・開成山地区【寄附の受け皿】後編|専用の枠は、つくらなかった

作成者: 取材 / 執筆 / 撮影:刈込 隆二|Oct 21, 2026, 1:00:00 AM

企業がまちに寄附できる仕組みを、郡山市は用途を絞らない形で用意していた。スポーツ専用の枠をつくらないまま、市はプロバスケットボールクラブの提案を受け止めた。「選ばれるまち推進課」の課長・髙橋勇介と、スポーツ振興課の課長補佐・佐藤聡一に聞いた。

前編では、残すと決めた市の判断と、発注の条件の書き方を追った。後編で見るのは、寄附の受け皿の設け方と、クラブとの関係、開成山地区のこれからである。

第1章 特化しない、という選び方

企業版ふるさと納税で行政が寄附を集めるには、先に受け皿となる事業が要る。制度そのものは、企業が地方創生の事業に寄附すると、その多くが法人税などから差し引かれる仕組みだ。ただし控除の対象になるには、その事業について国の認定を受けておかなければならない。

認定には、寄附の用途を絞る取り方と、広く取る取り方がある。行政はどんな狙いで、どちらを選ぶのか。

郡山が取ったのは後者である。人口減少に向き合う総合戦略に載っている取り組みを、まるごと寄附の対象にした。

「選ばれるまち推進課」で課長を務める髙橋勇介によれば、広く取るこの形は「包括認定」と呼ばれる。スポーツも子育てもインフラも産業も、総合戦略に載っていれば寄附の対象になる。門戸を広げるための選び方だという。

 「選ばれるまち推進課」課長の髙橋勇介

「包括認定」という広い枠

全国を見ればどちらの形もある、と髙橋は言う。特定の課題に絞って基金を立て、それに合わせた計画を国に認めてもらう。狙いが明確なぶん、寄附は集まりやすい。

一方で、企業からの申し出に備えて広く網をかけておく行政も少なくない。用途を絞れば、その枠に入らない寄附の話が来るたび、新しく事業を立てて国の認定を取り直すことになる。

「その都度、新しいプロジェクトを立ち上げて、総務省の認定を得るというのは、やっぱり手間です」

郡山が取ったのは、その手間を避ける形だった。

もっとも、市として企業版ふるさと納税を強化する方針だったわけではない、とも髙橋は言い添えた。

「うちのように幅広く広げて、いろんな分野のいろんな企業の方との関係性を作っていくというのも、一つの戦略」

受け皿づくりは、集める額を増やす工夫とは限らない。

広い枠は、具体の話が入らなければ枠のままだ。郡山では、その具体が民間の側から入った。

第2章 枠と、具体は、どこで接続したか

枠を広く用意した行政と、具体を持ち込む民間。その二つは、どこかでつながらなければ動かない。

郡山では、それはどこで起きたのか。

髙橋によれば、最初に話を持ちかけたのは市の側ではない。福島ファイヤーボンズの運営会社、福島スポーツエンタテインメント株式会社だった。

制度は、行政から募集する形でも、企業から申し出る形でも動く。郡山では後者から動いた。

寄附より前からの接点

二つの側が向き合ったのは、寄附の話が最初ではない。

最初の接点を、髙橋は記憶をたどってから口にした。

「連携中枢都市圏立ち上げの頃かな」

当時の髙橋は、市町村間の広域連携も担当していた。17の市町村と21の企業でパートナーシップの枠組みをつくる、という仕事だったという。クラブは当時から、周辺の市町村も含めて、健康やスポーツに関わる活動を続けていた。

「広域連携のパートナーとしても、ふさわしいチームだなと思った」

市の側の見方も変わっていった。クラブとのやりとりは運営会社の社長・西田創が就任する前からあり、就任後に頻度が上がった、と佐藤は振り返る。市はやがて、クラブを一民間の活動とは見なくなっていく。

「一緒に考えていかなくちゃいけないな、というパートナーとして対応を続けてきた」

寄附の申し出が来たのは、その頃になる。始まりはどちらかといえば民間からの提案だった、と髙橋は説明する。

「その西田さんがいたからこそ始められた、という認識ではあります」

包括的な枠の認定は2020年11月。クラブからの提案も、髙橋の記憶では同じ頃だという。

ただ、どちらが先かより確かなことがある。市はスポーツに特化した受け皿を新しく立てず、既にある認定の中で提案を受け止めて検討へ進めた。

枠と提案は、こうしてつながった。では、そこに積まれた寄附と、改修後の施設には、それぞれ何が残っているのか。

第3章 4,000人の前で、地元の子が演奏する

寄附がいくら集まったかは、市の集計に出ている。

一方、改修の成果として市スポーツ振興課の佐藤聡一が挙げたのは建物のことではない。この施設で誰が何をするようになったかだった。

寄附の額と、施設で起きていることは、それぞれ別の形で残っている。

46件、およそ2億7,000万円

市全体に寄せられた企業版ふるさと納税は、2020年度からの5年で46件、およそ2億7,000万円である。その最も大きな充て先が、スポーツを軸にした市の取り組みだった。

ただし、この額は市全体への寄附の合計で、体育施設の改修に充てた額ではない。

2,000人から、4,900人へ

もう一つは、施設の使われ方の変化だ。

改修前の試合は、2,000人来るかどうかだった。クラブはB.PREMIERの参入条件として、ホームゲームで平均4,000人以上を掲げていた。市の側にも不安があったという。

「チームも我々も、すごい心配してたんです。大丈夫か、開幕って」

改修を終えた施設での開幕は、4,000人を超えた。最も多い日は4,900人だったという。

佐藤は、この変化をこう表現した。

「だからもう、仕様が完全に変わった気がしますね」

改修後の変化をこう語った佐藤。

ハーフタイムの8分

そのハーフタイムの8分ほどに、小学生が弦楽器を弾く。全国で頂点に立った高校生がフラダンスを踊ることもあるという。

保護者は最前列に来る、と佐藤は言う。かぶりつきで見ている。そして、こう聞いたという。

「うちの子が3,000人、4,000人の前で演奏すると思わなかった」

佐藤が成果として語ったのは、直った建物ではなく、市民が人前に立てる場所ができたことだった。

クラブの気配は、施設の外にも出ている。

話す佐藤自身も、クラブのロゴが入ったポロシャツを着ていた。この日のものは2,700円。職員が自分で買い、課がまとめておよそ400枚を発注しているという。駅から開成山へ向かう道でも、街灯にクラブの旗が掲げられている。

「ハコモノなど、行政はなかなか批判されることも多いですけど」と髙橋は言う。それでも、人口およそ31万の郡山市には、数千人が集まれる場所がどうしても要る——そう続けた。

ハーフタイムのコートで、地元の高校の吹奏楽部が演奏する。 ©FUKUSHIMA FIREBONDS

第4章 開成山は、変わり続ける

施設の改修は終わり、寄附を受ける枠はいまも開いたままである。市とクラブの関係も、寄附の話より前から続いてきた。

では、この一帯はこれからどうなるのか。

駅前で、ティッシュを配る

クラブは、いまも市の職員と並んで駅前に立つ。

「去年とかも、これだけのビッグクラブになっているのに、一緒に、我々と駅前でティッシュ配りもしました」

配っていたのは、クラブの事務局のスタッフである。選手は学校へ行き、朝の挨拶運動に立つ。昔から足しげくやっているという。

地域に入り込む活動と、大きなプロスポーツがまちにあること。その両方が必要だと髙橋は見ている。

「しっかりとした人の顔が見える関係性も大事だし、大きなプロスポーツがあるっていうシビックプライドも大事だし。両方やってくれる、結構器用なチームなのかな」

洋服屋が、クレープ屋になる

開成山の一帯そのものについて、髙橋は別の言い方をした。

「未来に向けて、言い方あれですけど、いじりがいがあるエリアだと思うんですよ」

髙橋は続ける。

「この間まで洋服屋が入っていたところに、新しくクレープ屋が入っていたりとか。何かがなくなっても、すぐ新しい要素が入ってくる。郡山はそうやって発展してきたまちだと思います」

変わり続けること、新陳代謝を続けることが街の力になる——髙橋はそこまで言い切った。

更新の判断は、施設を残すかどうかから始まった。その先にあったのは、まだ手を入れられる場所として一帯を見る目である。

佐藤は、自分たちの仕事をこう位置づけた。プロスポーツの存在そのものが人を呼ぶ。それを他の分野と掛け合わせて、この場所からしか出せないものを出していく。

「トップスポーツチームと一緒に、その辺は歩んでいきたいかなと思っています」

開成山公園の案内看板。4つの施設と市役所が、同じ地区に収まっている

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プロフィール

写真右:佐藤 聡一(さとう・そういち)
郡山市スポーツ振興課 課長補佐。2024年から現職。前職は行政マネジメント課、DX戦略課。行政マネジメント課では、公共施設の整備に民間の資金を使う方式を扱う指針づくりに関わった。

写真左:髙橋 勇介(たかはし・ゆうすけ)
郡山市選ばれるまち推進課 課長。同課は2026年4月に新設された。前職は都市政策課、政策開発課。政策開発課で企業版ふるさと納税の立ち上げを担当した。