企業の取り組み

いちご×テゲバジャーロ宮崎【席、餃子、スポンサー】第2部|スタジアムから地域経済圏へ

作成者: steer株式会社|Jul 14, 2026 7:21:37 PM

テゲバジャーロ宮崎は、宮崎を本拠とするサッカークラブだ。2023年末にいちごが全株式を取得し、取得から2年でJ3からJ2へ昇格した。2026年のシーズン移行期に開催された百年構想リーグでは、J2・J3の40チームで3位。心築と、現場に降りて数字を組む作法は、最初に手をつけたスタジアムでどう使われたのか。ハコの値付けから、宮崎県内のいちごの5つの事業、そしてスポンサーやファンを巻き込む経済圏へと、話は広がっていく。

第1章 スタジアムという不動産——値段のつけ方

Jクラブのスタジアムは、試合のある日だけの施設だ。テゲバジャーロのホームゲームは、年におよそ19試合。なでしこ1部ヴィアマテラスや天皇杯・皇后杯の試合、高校選手権の試合が約20試合。残りの320日あまり、スタジアムは静まり返っている。建てるにも保つにも費用はかかるのに、動くのは年に40日ほど。普通の不動産なら、なかなか割に合わない。

年40日しか動かない施設

そのスタジアムを「不動産」として見たとき、年に40日ほどしか動かない施設の価値を、どう上げるのか。

価格の話は、実際に座る場所の違いから始まる

スタジアムは公共施設だ。行政の指定管理料で回すのが現実的だ——そういう見方はある。多くのスタジアムは、その考え方で運営されている。

だが、いちごは、行政から運営委託費を受け取っていない。そこで、観客やスポンサーを、ビルに入る「テナント」、ホテルに来る「宿泊客」になぞらえた。来る頻度も納得できる価格も人によって違う。だから席ごとに値段と売り方を変える。ビルの賃料をフロアや区画ごとに設計する、ホテルの室料を部屋の広さや眺め、需給をもとに設計するのと同じ考え方を、スタジアムに持ち込んだ。そして、入場を整理する人員は「管理員」になぞらえ、その配置をできるだけ減らせるよう、席の種別と並びを組み直した。

不動産の現場では、誰が何にどれだけ価値を感じるかを見て、値段を決める。石原は席ごとに、どんな来場者が通い、いくらまで受け入れられるかを、実地で確かめながら組んでいく。また、社長の宮本の経験値をもとに、チケットの種別を統合していった。

席ごとに値段を変える

なぜ、席ごとに値段を変えるのか。毎試合のように通う人と、年に数回だけ来る人とでは、感じている価値も納得できる価格も違う。一律の値段をつければ、よく通う人には価値に見合わず、たまに来る人には割高に見える。一人ひとりの通い方に値段を合わせることが、結局は施設全体の値打ちを上げる。

席によって価値が違うのは、実際に座ってみると、すぐに分かる。この日観たのは、6月6日のプレーオフ。宮崎のホームで行われた、J2・J3百年構想リーグの3位・4位の順位決定戦だ。席は、ちょうどセンターラインのあたり。ゴール裏の声援は、画面越しでは届かない、腹の底にくる熱気だった。

ゴール裏の声援は、離れていても地面に響くようだった。©TEGEVAJARO MIYAZAKI

いちばん良い席は、足しげく通う常連が多い。こうした席は、現場で一人ひとりに確認したうえで値上げをする。頻度や客層がさまざまな席は、できるだけ据え置く。価値を感じる人には応分の負担を、そうでない人には無理をさせない。全席を指定席とはせず、自由席の余白も残している。その線引きを、来場の実態から組み立てている。

スタジアムそのものにも、手を入れる。いちごは、このスタジアムの命名権も持っている。
スポンサーやパートナー、サポーターに呼びかけて、ふるさと納税を集め、大改修を新富町と進めていく。バックスタンドを新しくし、屋根をかければ、収容はいまの5,000人超から、8,000人ほどになる。5,000席ほどをすべて個席にすれば、ホームタウン人口やサッカー専用スタジアムという点を活かし、Jリーグがホームスタジアムに求める施設基準を満たせる見通しだという。

ただし、これはまだ「ハコ」づくりにとどまる。地域経営に届くには、スタジアムの外の事業とつながらなければならない。

第2章 オール宮崎体制——5事業はこうつながる

地方都市で、いくつもの事業を手がける会社は珍しくない。だが、同じ会社が複数の事業を持っていても、実際に手を組んで動いている例は意外と少ない。たいていは、同じ看板を掲げながら、別々に動いている。

複数の事業を同じ地域に持ったとき、ばらばらの会社が、ひとつの経済として回るには、何が要るのか。

内部で回す理由

いちごの宮崎では、その連携が「内部売上率」という決めごとに支えられている。中核に置かれているのが、交通の結節点にある商業施設、宮交シティだ。

石原は、こう語る。「内部売上率を決めて、それに応じて発注し、できるだけグループ内部で分担して事業を回していく。全部を内部で消化すれば、地域の外にお金が出ていかない」。連携は、善意や雰囲気ではなく、あらかじめ資金の流れとして設計されている。

試合のアナウンスやMCは、グループのラジオ局・宮崎サンシャインエフエム。スタジアムの管理は、いちごが100%出資する会社。電気は、グループのいちごECOエナジーが発電したクリーンエネルギーだ。中核の宮交シティにはクラブハウスがあり、グループの農業法人・いちごポタジェが育てる果物や胡椒も使い、デッキでのもてなしや選手の食事づくりを担う。食、エネルギー、情報、スポーツが、一本の線でつながる。

餃子がつなぐもの

そのつながりを象徴するのが、餃子だ。グループで農業を担ういちごポタジェが、国産の胡椒の栽培に成功した。その胡椒を使い、添加物を使わない餃子をつくり、いちごの名を冠して原価で売る。テゲバジャーロ宮崎が実施している「スポンサー連動型グルメプロジェクト」。いちごの広告協賛を販売価格に充当することで、サポーターは安く購入できる。今回は地元の餃子の協議会や餃子事業者と組んだ取り組みだ。宮崎は、餃子の購入頻度が6年続けて日本一という土地柄。その看板商品に、グループの農業が結びついている。ちなみに、石原は宮崎市ぎょうざ大使である。

餃子は、グループ事業とスタジアムをつなぐ接点になる

いちごポタジェはライチやマンゴーも育て、スタジアムの飲食もコーディネートする。宮交シティでは、ファン・サポーターイベントがある。試合の日には、普段は買い物客が行き交う商業施設が、もてなしと交流の拠点に変わる。直売所に来た人がスタジアムへ、試合に来た人が餃子や農産物を持ち帰る。一つの場所が、別の事業の入口になる。

試合の日、入口へ続く道にはスタジアムグルメの店が並んでいた。開始までまだ時間がある。それでも、食べ物を買う人、売る人の声で、あたりは動き出していた。

試合前から、スタジアム入口のブースには人が集まり始める

石原は「オール宮崎」という言葉をよく使う。それが指すのは、グループ内の循環だけではない。地元の企業や行政まで含めて、宮崎という地域そのもので事業を回していく構えだ。

ばらばらの事業がひとつの経済として回るのは、連携の「数」ではなく「内部売上率」という決めごとがあるからだ。ただし、5つの事業を自前で持てるのは、いちごだからこそだ。それでも、問いは残る。地域の外へ出ていく資金を、どこまで地域の内側に残せるか。

内側で回るこの経済の、さらに外側に、いちごはもうひとつの輪を描いている。スポンサーやファンを「ファミリー(家族)」と呼ぶ、その発想だ。

第3章 ファミリー経済圏——応援が経済を回す

スポンサーとは、広告主のことだ。看板を出し、契約を結び、期間が終われば関係も切れる。それが普通だ。

そのスポンサーを、「広告主」ではなく「家族」として捉え直すと、地域の経済に何が起きるのか。

スポンサーを仲間に変える

石原は、スポンサーやファン、行政、パートナーをまとめて「ファミリー」と呼ぶ。看板の対価で終わらせず、一緒に地域を支える仲間として関係を育てる。その関係が、スポンサー収入や法人の需要、企業版ふるさと納税のような行政の仕組みにもつながっていく。本人の言葉では「ファミリー経済圏」であり「応援資本主義」だ。

人が来る理由を確かめ、また会いたくなる接点を用意する。選手が成長し、サポーターが一緒に旗を振り、関係者が顔を合わせる。そうした場づくりが、応援を一度きりで終わらせない。

試合前に生まれる接点

試合の前、選手を乗せたバスが入口に着く。その前から、サポーターや関係者が出迎えに待っている。石原もそこにいて、降りてくる選手やコーチ、監督の一人ひとりと握手を交わし、目を合わせていた。

選手たちとの距離も近い。選手更新のリリースは石原が自ら書き下ろしている。ひとり当たり平均1時間ほどかけ、過去の映像と、本人や家族との会話をもとに感謝を綴り、ファミリーへ届けている。選手の食事も自ら試食し、改善を重ねる。朝どれのとうもろこしがうまく穫れたと聞けば、手に入れて選手やコーチ、監督のもとへ運ぶ。石原はチームをファミリーの真ん中に置き、敬意を払っている。

スタジアム入口前で、石原が選手と握手し、後ろにサポーターとマスコットが見える

こうしてクラブが積み重ねる関係は、数字にも表れている。チームの戦績、観客の動員はもちろん、石原によれば、いちご以外のスポンサー収入は、取得前を基準とすると、前のシーズンには3倍まで増えた。J2で迎える新しいシーズンは、7倍を目標にしているという。看板の対価としてではなく、関係を育てた結果だ。いちごが行う企業版ふるさと納税は、地域の健康づくりの財源となっている。この「応援」の気持ちもまた、行政の仕組みを通って地域の人々からの感謝として形になっているようだ。

試合後も、選手バスの周囲にはサポーターの輪が残っていた

「ファミリー経済圏」は、情緒の話ではない。中心にいるのは選手や指導者だ。その姿がファミリーを勇気づけ、スポンサー料や観客動員、企業版ふるさと納税となって地域の経済へ流れ込む。ファミリーが活性化すれば、資金の流れもまた活発になる——そういう設計だ。
この循環は、宮崎を持続可能な都市にできるのか。7年続いたトップパートナーの「看板」が外れたあと、いちごの手元には、何が残るのか。

第2部では、スタジアムの値付けと、5つの事業が生む循環を見てきた。続く第3部では、看板が外れた後に残るものと、クラブが地域に人を育て留める仕組みを追う。

プロフィール
石原 実 いちご執行役副社長兼COO。株式会社間組(現 株式会社安藤・間)で国内大型ダム工事等の工務・施工管理に従事。2007年いちご入社、グループの管理業務を統括。その後、心築本部長として物件のバリューアップ、地方創生案件を指揮。2011年執行役副社長、2015年からCOOを兼任。2021年からサステナブルインフラ事業を管掌する。いちごのウエイトリフティング部・陸上部・テニス部の部長や監督、プロサッカークラブ「テゲバジャーロ宮崎」会長、ホテル運営「ワンファイブホテルズ」会長兼社長など。

【あわせて読みたい:第3部 宮崎に何を残すのか編】
トップパートナーの看板が外れた後に、いちごへ残る資産とは何か。クラブが地域に人を育て、留める仕組みを、ほかの地域の実務者が点検できる形で追う。

いちご×テゲバジャーロ宮崎【宮崎に何を残すのか】第3部|残った資産で、人を育て、留める