シャッターの下りた店舗が並ぶ商店街や、人通りの少なくなった駅前の風景を目にしたことがある方は多いのではないでしょうか。かつて多くの人で賑わっていた地方都市の中心部で、今こうした光景が広がっています。この空洞化に歯止めをかけ、まちの中心部に再び活力を取り戻そうとする取り組みが「中心市街地活性化」です。
中心市街地は、行政サービスや商業、医療、文化施設などが集まる、まちの「顔」ともいえるエリアです。ここが衰退すると、住民の生活利便性が下がるだけでなく、地域全体の活力やイメージにも影響が及びます。
また、税収の減少や公共インフラの非効率な維持管理といった行政課題にもつながりかねません。中心市街地を維持・再生することは、単なる商業振興にとどまらず、まちづくり全体の持続可能性を左右する重要なテーマといえるでしょう。
多くの地方都市で共通して見られるのが、人口減少・少子高齢化による顧客層の縮小、郊外への大型商業施設の進出による顧客の流出、そして後継者不足による空き店舗の増加です。これらが複合的に絡み合うことで、一度衰退が始まると自力での回復が難しくなる場合があります。商店主の高齢化が進み、事業承継が進まないまま閉店に至るケースも少なくありません。
中心市街地活性化の目的は、単に商業を活性化させることだけではありません。都市機能を中心部に集約し、居住・商業・行政サービスが徒歩圏内で完結するコンパクトなまちを目指すこと、そして地域住民が誇りを持てる魅力的な空間を作ることも重要な狙いです。国や自治体は、こうした多面的な目的を踏まえながら、法制度や支援措置を通じて取り組みを後押ししています。
「中心市街地活性化法」と聞くと、堅い行政用語のように感じる方もいるかもしれません。しかし内容を紐解くと、疲弊した中心市街地を再生するために国が用意した、いわば"支援のための仕組み"であることがわかります。
中心市街地活性化法は1998年に制定されました。背景には、モータリゼーションの進展や郊外型大型店の増加によって、全国の地方都市で中心部の空洞化が急速に進んだという事情があります。それまで個別の自治体や商店街が独自に取り組んでいた再生策では限界があり、国として横断的な支援の枠組みを整備する必要性が高まったことが、この法律が生まれた大きな理由です。
2006年には法律が大きく改正されました。改正前は、大型店の郊外進出を実質的に後押ししてしまう面もあり、かえって中心市街地の空洞化を助長しているという指摘がありました。改正後は、都市機能の郊外拡散を抑制し、中心市街地への都市機能の「集約」を明確な方針として打ち出しています。あわせて、内閣総理大臣による基本計画の認定制度が創設され、国の支援がより計画的・重点的に行われる仕組みへと変わりました。
この法律に基づき認定を受けた基本計画に対しては、国庫補助や税制優遇、財政上の支援措置などが用意されています。具体的には、市街地整備や商業活性化事業への補助金、まちづくり会社への出資に関する税制上の措置などが挙げられます。ただし支援の内容や適用条件は事業内容や年度によって異なる場合があるため、実際の活用にあたっては最新の制度概要を確認することが望ましいでしょう。
制度の全体像を理解したところで、次に気になるのが「具体的にどう計画を作り、進めていくのか」という実務の部分ではないでしょうか。
中心市街地活性化基本計画は、市町村が策定し、内閣総理大臣の認定を受けることで初めて法律に基づく支援の対象となります。認定を受けるためには、区域の設定や活性化の目標、具体的な事業内容などを盛り込んだ計画を作成し、国の審査を経る必要があります。認定されることで、国からの重点的な支援を受けやすくなる仕組みです。
計画策定は、まず自治体が地域の現状分析や課題整理を行うところから始まります。その後、商工会議所や地元事業者、住民などとの協議を重ねながら目標や事業内容を具体化し、内閣府に計画案を提出します。審査を経て認定されると、計画に基づいた事業が本格的に動き出す、という流れが一般的です。策定には一定の期間を要するため、早期からの関係者調整が欠かせません。
認定を受けることで、国の補助金や税制優遇などの支援策を活用しやすくなるほか、計画に沿って複数の事業を体系的に進められる点も大きな利点です。また、国のお墨付きを得た計画として対外的な信頼性が高まり、民間事業者の参画を促す効果も期待できます。単独の事業では得にくい相乗効果を生み出しやすくなる点が、基本計画を活用する意義といえるでしょう。
認定を受けた計画は策定して終わりではありません。計画期間中や終了後には、目標の達成状況について自治体自らが評価を行い、必要に応じて国に報告する仕組みが設けられています。この評価を通じて、事業の効果検証や次期計画への改善につなげることが期待されています。
2020年代に入り、全国各地の自治体では、単なる商業振興にとどまらない多様なアプローチで中心市街地の再生に取り組む動きが広がっています。
住居・商業・医療・行政サービスなどの都市機能を中心部に集約する「コンパクトシティ化」は、代表的な取り組みの一つです。郊外への都市機能の拡散を抑え、徒歩や公共交通で生活が完結できるまちを目指すことで、高齢者を含む住民の生活利便性向上と、行政コストの効率化を同時に図ることができます。
空き店舗への出店支援や、イベント開催によるにぎわいづくりも広く行われています。チャレンジショップ制度を設けて新規出店者を呼び込んだり、マルシェやマーケットを定期開催したりすることで、商店街に新たな人の流れを生み出す事例が各地で見られます。
図書館や市役所支所、子育て支援施設などの公共施設を中心市街地に集約・整備することも、有効な手段の一つです。公共施設は安定した集客力を持つため、周辺の商業施設への波及効果も期待でき、まちなかへの人の流れを生み出す核として機能する場合があります。
中心市街地への人口回帰を図るため、マンション建設への補助や、住宅取得に対する助成制度を設ける自治体も増えています。居住人口が増えることで、日常的な購買力が生まれ、商業機能の維持にもつながるという好循環が期待されています。
近年注目されているのが、行政だけでなく地元事業者や住民が一体となってエリア全体の価値向上に取り組む「エリアマネジメント」です。まちづくり会社やタウンマネージャーを中心に、公共空間の活用やイベント企画、環境美化などを継続的に行うことで、行政主導だけでは実現しにくい柔軟な取り組みが可能になります。
近年では、人流データの分析やキャッシュレス決済の導入、デジタルサイネージによる情報発信など、デジタル技術を取り入れた中心市街地活性化の取り組みも広がっています。データに基づいた施策立案により、限られた予算を効果的に配分できる点が評価されています。
制度や取り組みの概要を押さえたところで、実際にどのような形で中心市街地活性化が実を結んでいるのか、具体的な事例を見てみましょう。
横浜市関内エリアでは、JR関内駅前にあった旧横浜市庁舎の跡地を活用した再開発により、2026年3月に大規模複合施設「BASEGATE横浜関内」が開業しました。三井不動産を代表企業とするコンソーシアムが延床面積約12万8500平方メートルの施設を整備し、設計・施工は鹿島建設と竹中工務店が担当しています。
この再開発には横浜DeNAベイスターズをはじめ星野リゾート、京浜急行電鉄、第一生命保険など計8社が参画しており、球団直営の観戦施設や星野リゾートが運営するホテル、飲食エリア、研究者・企業向けの交流拠点などが一体的に整備されている点が特徴です。土地は横浜市が所有したまま、コンソーシアムに長期の定期借地契約で貸し出す形が取られており、行政と民間が連携しながらまちの中心部を再生する一つのモデルケースといえるでしょう。プロ野球の試合がない日にも人が集まる仕組みを組み込むことで、周辺の中華街やみなとみらいといった観光エリアとの回遊性を高める役割も期待されています。
※”BUSINESS INSIDER「DeNAベイスターズ、『横浜スタジアム』隣に込めた野望。南場会長が語る『試合がない290日』で稼ぐ、まちづくり事業の全貌』」”参照
多くの成功事例がある一方で、中心市街地活性化には根深い課題も存在します。
そもそもの人口減少・高齢化という構造的な課題は、どれほど施策を打っても短期間で解決できるものではありません。商業施設を整備しても、それを利用する人口自体が減少していけば、効果は限定的になってしまいます。中長期的な視点での対応が求められる部分です。
郊外には広い駐車場を備えた大型商業施設が数多く立地しており、車社会の地方都市では利便性の面で中心市街地が不利になりやすい傾向があります。中心市街地側が同じ土俵で競争するのではなく、郊外にはない体験価値をどう提供できるかが問われています。
後継者不足や採算悪化により閉店した店舗が空き店舗のまま放置されるケースは少なくありません。所有者が遠方に住んでいたり、権利関係が複雑だったりすることで、活用や売却が進まない場合もあり、景観や治安面への悪影響も懸念されています。
エリアマネジメントなどの官民連携の取り組みは、担い手となる人材や資金の確保が長期的な課題となりがちです。行政の補助金に依存した体制では、支援が終了した途端に活動が縮小してしまうこともあるため、自立的な収益モデルの構築が求められます。
活性化事業の効果を定量的に測定することの難しさも、しばしば指摘される課題です。歩行者通行量や空き店舗率といった指標はある程度把握できますが、住民の満足度やまちへの愛着といった定性的な効果を測ることは容易ではなく、評価手法の確立が引き続きの課題となっています。
これまで見てきた課題を踏まえ、実際に成果を上げている自治体にはいくつかの共通点が見られます。
「どんなまちを目指すのか」というビジョンが曖昧なまま個別事業だけを積み重ねても、効果は分散してしまいがちです。将来像を関係者間で共有し、そこから逆算して事業を組み立てていくことが、一貫性のある取り組みにつながります。
行政や一部の事業者だけで進める活性化には限界があります。日々そのまちで暮らし、店を営む住民自身が主体的に関わることで、施策が地域の実情に合ったものになりやすく、継続的な運営にもつながりやすくなります。
民間ならではの企画力や資金力、集客ノウハウを取り入れることは、行政主導だけでは生まれにくい発想を実現する上で有効です。BASEGATE横浜関内のように、複数の企業が役割を分担しながら参画する体制は、今後さらに広がっていく可能性があります。まちづくりに関わる専門人材の存在が、こうした官民連携の成否を左右する場面も少なくありません。
計画を策定して実行するだけでなく、定期的に効果を検証し、必要に応じて軌道修正を行う姿勢も欠かせません。フォローアップの仕組みを形骸化させず、実質的な改善サイクルとして機能させることが、長期的な成功につながります。
中心市街地活性化は、商業機能や都市機能の維持だけでなく、地域の魅力向上や持続可能なまちづくりを実現するための重要な取り組みです。中心市街地活性化法や基本計画を活用することで、自治体や民間事業者はさまざまな支援措置を受けながら事業を推進できます。一方で、人口減少や空き店舗の増加など課題も多く、行政だけでなく地域住民や民間事業者との連携が欠かせません。成功事例や制度の仕組みを参考にしながら、地域の実情に合わせた中心市街地活性化を進めていくことが重要です。